死ぬほどアイシテル。




2月14日のある恋人達の風景。




ドン!という大きな音で目が覚めた。

朝目が覚めたら、そこは異世界でした。

……ってそんなわけあるか…!!!
と急いで布団から這い出て周囲を見渡す。
万事屋であるはずの自分の家が半壊しているのを目で確かめた。ふすまは骨組みが見えて黒くこげてお
り、畳はむしられた様に抉れている。そういえば寒いなあと思うと、やねが在るべきところからあからさま
な晴天が顔を覗かせていた。
原因は、なんとなく分かっている。我が家の破天荒娘、神楽だ。
焦げた臭いがあたりに充満している所から想像して、また無謀にも料理に挑戦したのだろう。そうでもなけ
れば、また誰かが厄介ごとでも運んできたのか。後者だったら本当に嫌だ。今日は久しぶりに有給をとっ
てくれた恋人と、せっかくの逢瀬なのだ。今日は昼前に家へ来てくれる予定らしい。それを神楽に言ったら、
大人しくしていると約束してくれたはずなのだが…。
最近の彼女は『女の子』で意外と乙女なのが可愛いが、いかんせん何をするにも裏目に出てしまう。
掃除をすれば物を壊し。犬の散歩へ行けば暴走をして。料理にいたっては新八の姉と肩を並べる。

「ってか、料理して『ドン!』って何したよ、アイツ……?」

時たまある料理からの被害は初めてではなかったので、落ち着いて立ち上がる。
朝日のようなものが見えている時間帯に起きることが久しぶりすぎて何だか自分がまともな人間のように
思えた。出遭っている状況はまったくまともではないけれど。
壊れているふすまをまたいで、台所へと顔を覗かせるとなにやら本を片手に台所を眺め、首を傾げる神楽
の後姿があり、やっぱりか、と溜息をついた。

「かーぐらー……お前家を壊すの何度目ぇ〜?」
「……うを!!」
「んで?何してたんだよお前。怒らないからお父さんに言ってごらん」
「誰がお父さんネ!調子に乗るなマダオ」
「そう言うこと言っていいんかお前!トシに連絡とってあげようと思ったのに?」
「………酢昆布1箱あげるよ銀ちゃん!!」

憎まれ口を叩く神楽の手元の本を見ると、ああなるほど、と納得した。
『バレンタインレシピ』
そう書いてある本に、奇跡的にも無事だったカレンダーを見やると2月14日。本日はバレンタインデー。
女の子達がいっせいに獣になる…もとい健気に頑張る日であり、モテない男にとっては地獄の1日。
きっと神楽は身内にチョコでも作ってくれようとしていたのだろう。
だが、

「なんでチョコで爆発…?」

そんな疑問を浮かべながら、健気な神楽のために料理上手な恋人を呼んでやるべく携帯に手を伸ばす。
リダイヤルを液晶に表示させると何件もトシが並んでいるのにちょっとドキドキしながら通話ボタンを押すと、
数コール目で落ち着いた声が出た。

「トシ〜?おれおれ」
『オレオレ詐欺ですか。そうですか。おれは警察なので余計な真似はしないでくれますか。っていうか俺に
「俺」なんていう知り合いはいませんので、間違い電話だったら他をあたっていただけますか。あ、それと
も壷の勧誘?いまから逆探知かけて居場所突き止めてボコしてもいいんですけどいかがですか』
「……あなたの銀ちゃんだよ、はにー」
『燃えるごみの日に捨ててやるよ、ダーリン』

え、今ダーリンって言ったかぁぁぁ!!

「ねえねえ今ダーリンって言った?言ったよね。そうだよね。え、やばくない?!銀さ朝からめっさハイテン
ションなんだけど!!もうトシアイシテルよー!!今日は新婚プレイでいってみようか!!」

と、大興奮して辛辣な文句など忘れ、愛の言葉をつらつら連呼すると、うるさい、と一刀両断され、神楽に
は早く代われと小突かれた。あからさまに邪険な態度にしくしくと泣いてやると、さらにキツイ言葉と行動
が返ってきた。

「って言うことでちょっとトシちゃんの家行ってくるネ」
「何が『って言うこと』なのかがまったくわかんねーよ酢昆布娘」

はい、と携帯を返されて通話口に耳をつける。

『これからチャイナ来るからそっちいけねーわ』
「………はぁぁぁぁ!?何それ!!何それ!!泣くよ?!あまりに酷い仕打ちは俺泣くよ?!」

最近俺の順位って、近藤>真撰組>子供たち>・・・・・・・>俺。じゃない?!
酷くない?!俺って唯一無二の恋人じゃないの?!愛誓い合ったじゃん。愛し合っているじゃん!…ここ
ら辺はちょっと自信がなくて泣けてくるけど。

『聞けよ天然パーマネント!!…だからお前家に来い。今日の予定変更。お前の家から俺ん家』
「あーなんだ。………うはーマジ焦る。…あ、御泊りでも構いませんかお嬢さん!!」
『死ね』

ブチ!っと勢い良く通話を切られたが顔に浮かぶのは笑顔。
携帯を閉じて出掛ける用意をするべく立ち上がると、先に行ってるヨ!と神楽は速攻で家を飛び出し
てしまった。まあ、破天荒娘の行動はどうなろうとも破天荒なのでそうそう気にしなくてもいいだろう。
少々問題はあったものの、久しぶりの恋人との逢瀬に俺は心を躍らせた。









「って超ヒマ」

トシの家に着くと、もうすでに到着していた神楽と台所に引き篭もりキャッキャと微笑ましく料理をしていた。
が、なんだか俺は立ち入り禁止らしく、台所付近には近寄れない。
甘い香りが漂ってくることからお菓子作りなのだろうなーと、ウキウキしては見るものの、くれるのかなあ、
と半ば心配になるのは小心者ゆえか、普段の恋人の仕打ちのせいか。
そんなこんなで数時間が経過し、俺はというと今現在は居間のコタツで蜜柑を食べつつテレビ鑑賞。
平日の昼間はドラマの再放送しかやっておらず、ふと見るとビデオの録画マークが点灯しているあたり、
やっぱり律儀に録っているんだね、と笑ってしまった。
コタツでうつらうつら船をこいでいると、台所からパタパタと走ってくる足音が聞こえた。

「銀ちゃーん」
「おお、出来た?」
「出来たアル!!これ、銀ちゃんの分ネ!ってコトであたしはちょっと行ってくるアル!!」
「ありがと……ってどこへ…?」
「じゃあね銀ちゃん!」

ポン!と可愛くラッピングされた包み紙を手渡されると、急いで神楽はどこかへ走っていってしまった。
そのあとにクスクス笑いながらトシがでてきた。
久しぶりに見た恋人の姿に、コタツから這い出て腰に抱きつく。

「何、アイツ」
「渡したい奴でもいるんじゃねーかぁ?」
「………え、誰?誰?」
「言ったらブスってなるから秘密」
「それだけで何となく想像ついたからもう良いです。母さん、子供が巣立っていくね」

子供をお嫁にやる心境で、これから彼女が会いに行くだろう男の顔を想像して溜息ひとつ。さらに寂しさつ
のってトシに抱きついた腕を強めると、苦しい、と腕を叩かれた。
いつもの煙草の匂いに混ざってお菓子の良い匂いがして、ふわふわと幸せな気分になってくる。
休日、二人きりになるといつもの過激さはどこへやら、しっかり甘えてくれる彼は後ろから抱きつく俺に体
重をあずける様に寄りかかった。

「そういえば、食べてみたか?神楽のチョコ」
「あ、まだだった…!!」

ガサゴソと慎重に包み紙を開けてみると、チョコのマフィンにハート型に固まらせた小さいチョコが数粒。年
頃の女の子の内容に、女の子だなあ、と納得した。
一口マフィンを口に入れると甘い味がしてきて、中のしっとり感がとても美味しかった。

「ん。うまい」
「よかった。神楽にちゃんと言ってやれよ」
「分かってるって!んで、トシはくれないの?俺に」
「………あーハイハイ」

スルっと俺の腕から抜け出して台所へ引っ込むが、すぐに包装を持って戻ってきた。
二人でコタツに腰掛けると、ポン、と目の前に大き目の箱が置かれる。
あけて良いの?と目で問いかけると深く頷かれたので、コチラも丁寧に包装を剥がして箱を開けた。

「う……わ」
「さっきな。神楽の脇で作ってたんだ」

本当は一人で盛大にやるつもりだったんだけど、と苦笑い。
箱の中には1ホールのチョコケーキが入っていてデコレーションはプロ並みの仕上がりだった。
相当手が込んでいるのは一目瞭然で、それを神楽が居るにもかかわらずやってのける彼はいっそ主婦だ
と思いつつ、ココまでしてくれる彼に愛しさが募った。
甘党で糖尿寸前なおれには1ホールなんて朝飯前だし、それも分かっていてこれにしてくれたのだろう。

「マジで凄いじゃん……!!喰うの勿体ねえ…!!」
「食べなきゃ腐るから、味わって食え」
「んじゃ、頂きます!!」

トシが大きめに切り分けてくれて、それをさっそく頬張る。
料理上手の彼のこだわりが、味にも見えて本当に美味しかった。

「………うまーい!!」
「ホントか?良かった。甘さの加減が結構難しくて…」
「全然平気、丁度いいよ。うん、旨い!」

パクパクと食べていく俺に、嬉しそうな顔をしてお茶を差し出してくれる。もはや熟年夫婦なノリに周りの人
間は砂を吐くと罵っていたがそんなことは関係ない。
こういう雰囲気はいいなあ、と幸せをかみ締めた。

「お返しは3倍な」
「……頑張らせていただきます」
「……なあ銀?」
「ん?」

身を乗り出してキスをされる。
不意打ちに目を丸くした。


「俺のこと、アイシテル?」

「……っ!」


してやったり!という不敵な笑みに心の中で両手を挙げた。



「……愛してるじゃあ、足りないくらいアイシテルよ」



再度俺から口付けたキスは、チョコの味がした。
坂田銀時、今年のバレンタインは死ぬほど幸せです。








END
バレンタインってコトで。銀土でUPしてみました。
神楽ちゃんのお相手はご想像にv多分あいつだろうな、って思ったあなた。きっと正解です!
ゲロ甘を目指しましたが。なりきれてない痛さが残ってしまった…!!

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