鬼の副長が、怪我をした。




5 月 5 日 の 恋 の 話 




息を切らして、白い病院にたどり着いた。スクターに乗る余裕もなくてただ足を動かした。久しぶりにこんな
に走った理由は、久しぶりの依頼をこなしている最中に血相を変えてやってきたジミー君。
呼び止められて、血の気の下がった顔をした奴が発したのは、『土方さんが怪我をしました』
頭が真っ白になって、依頼を放り出しジミー君を横切ってただ走った。
後ろから「大江戸病院ですよー」と言う声が聞こえて、それだけはギリギリ耳に残った。

ってゆうか、土方君。
よりによって今日、怪我しなくてもいいじゃない?
世の社会人はオヤスミだよ。世の少年達はおおはしゃぎだよ。そして、お前にとっては大切な日だよ。
俺はまだ。お前に「好き」って言ってないよ。
今日、言おうと思っていたんだよ。

病室の扉の前に来て、ようやく深呼吸。
ナースセンターで聞いたらココだと言っていて、病室の名前のところにも「土方」と記名してある。
一人分、ということは個室ということだろうか。
個室ってことはそんなに悪いのか。むしろどんな怪我だ。何も聞いていなかった自分が恨めしい。
扉の向こうには想い人。
白い廊下には、臆病な俺。

「銀時?」

耳に聞こえたのは聞き覚えのある声。
もちろん、

「土方ぁぁ?!」

その姿は元気そのもので、いつもの隊服姿だった。
やっぱり仕事だったんだね、と思う一方で、頭がどんどん混乱していく。
地味君は俺に言った。「土方さんが怪我をしました」って。ところがご本人は怪我なんてひとつもせずにピ
ンピンしている。これは一体何事なのか。

「え、け、怪我したんじゃないの?」
「怪我ぁ?俺が?してねえよ。したのは俺の……」
「トシちゃん!廊下で騒いじゃだめでしょー!」

ドン!と音を立てて土方の背後から人影が激突してきた。その人影は土方の鳩尾の辺りに腕を回し、思
いっきり締め付けている。
土方の後ろにすっぽりと隠れてしまっていて姿は見えないが「トシちゃん」と言っているあたりで土方の知
り合い、しかも仲の良い知り合いということが知って取れた。
なんかムカつく。
そりゃあ、俺はただの友達ですよ。むしろ知り合いですよ。俺だってトシちゃんとか呼んでみたい!

「ね……ちゃん、くるし!」
「あ、ゴメンね。でも昔流行ったわよね、気絶のさせあい、みたいな危険な遊び」
「姉ちゃんがやったら遊びの領域じゃねえよ!」
「失礼ねー!……あら、この方どなた?」

締め付けていた腕を放して、ひょっこりと顔をだしたその女の人は土方にそっくりだった。
それはもう、瓜二つ。彼をもっと女顔にして、縮めたらまさにコレになるだろう、そんな感じ。

「あ、坂田銀時です。歌舞伎町で万事屋やってます。なにかあったら是非」
「まあ、ご丁寧に。十四郎の姉でのぶと申します」

さっと胸元から名刺を出して営業。にっこり笑う彼女に土方の面影があって、笑ったらこんな感じだろうな
あ、と頭の片隅で思った。
……でも、肝心かことをわすれている。

「そうだ!土方、お前が怪我したって地味君に聞いたんだけど!!」
「だから俺じゃねえよ。怪我したのはうちの義理の兄だ。姉ちゃんの旦那だよ」
「は!?じゃあ俺、意味なくない?超心配したんだけど!!」
「……そりゃ悪かったな。山崎にはオレから言っとくから、お前もう……」

帰れってか…!?それは無いだろ……。
なんか、これこそ片思いの辛さ?天然の辛辣さ?一気にどんよりとした雰囲気になった廊下の空気に気
がついたのか、土方の姉ちゃんが口を開いた。

「トシちゃん、お姉ちゃんもう大丈夫だからさっさと帰んなさい。坂田さんも折角来ていただいたんだから、
一緒に帰ればいいじゃない」
「でも……」
「あの人はただ単に、階段の一番上から踏み外して落っこちただけ。貴方今日誕生日でしょう?お姉ちゃ
んからの誕生日プレゼントよ、ありがたく頂きなさい」

そう言った後、ぐいっと土方を引っ張って耳元でなにかを囁いた。
途端、土方の顔が真っ赤になって、魚のように口をパクパクさせている。

「じゃあ、わざわざスミマセン、坂田さん」
「いいえ、こちらこそ!!」
「お噂はかねがね。お会いできて嬉しかったわ。トシのことよろしくね?」
「は?えっと……はい」

なんだか強烈な姉ちゃんだ。
言っていることがまったく理解できない。噂?もしや近藤やS王子がなにか吹き込んでいるのだろうか?
基本的に、俺の気持ちはオープンだ。色々なところに知られている。
気がついていないのはご本人のみ。
嫌な噂だったらいやだな。俺の評価さんざんじゃん。
じゃあねー、と手を振るお姉さんに、ぼんやりと手を振る。
はあ、と溜息をつく土方を連れ立って、歩き出した。







沈黙が、痛い。
とてとて歩いているものの、まったく会話が無い。
何度か話しかけるものの、なんだかぼんやりしていて全然相手にしてもらえない。

「あの、さ」
「?」
「今日、お前誕生日だろ?オメデトウゴザイマス」
「あー……ありがとうございます」
「…………」
「…………」
「……………土方」

ふいに、俺が立ち止まる。それにつられて土方も立ち止まって、まっすぐ見つめた。
気まずい雰囲気を押し出すように大きく息を吸って、深呼吸をした。
言ってしまおうか。なにかきっかけがないと言えないこの気持ちを。
口を開こうとしたら、先にあのさ、と切り出された。

「誕生日、プレゼント欲しい」
「え?ああ、いいよー今極貧だから限られてくっけど。そこは土方のために奮発しちゃーう」
「金は掛からない」
「掛かんないの?」
「………えっと……」


「お前の。お前の、恋人って、形が欲しい」


は?
今、この子は何を言った?

「好き、なんだ。お前が。気持ち悪かったらゴメン。無茶なこと言っているって分かってる」

真っ赤な顔で、まだ言葉を紡ごうとする土方を衝動で抱き締める。
びくりとした体が、硬直した。
俺の心臓も、コイツの心臓も、ドキドキ言ってる。

「俺で良いなら、全部あげる」
「……うそ」
「嘘じゃない」
「気持ち悪く……」
「全然ない」


だって、初めて会ったときから好きだもん。


そう呟いてキスすると、もっと顔が赤くなってフラフラしていた。
やっと手に入れた、可愛いこの子。
5月5日は、彼の誕生日ともうひとつ、俺たちが始まった記念日になった。






俺をハメた地味君の行動は、実はのぶさんと沖田、そして近藤による「土方への誕生日プレゼント」だった
らしい。彼らは、俺の気持ちも土方の気持ちも知っていて、煮え切らない俺たちの後押しを「5月5日」とい
うきっかけに実行した。
そのネタ晴らしは、のぶさんが病院で土方の耳元で行い、その行為を無駄にしてはいけない!という土方
の懸命な努力と葛藤から無事大成功を収めた。


まあ、なにはともあれ。
ハッピーバースデイ、土方。









END
遅れてごめんなさい、土方さん!おめでとうございます!
当日のテンションは高すぎて見る専でした。
しかし、くだらねー…!「楽しいのは自分だけ」を駆け抜けていきました…。
お姉ちゃん初登場。苦手だった方、申し訳ありませんでした…。
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