サンタ、って奴を信じてもいい。


溢れるくらい、君が好き。《後》 (クリスマス銀土その1)




時計の針が12時を回りクリスマスになった世間は、まだまだ夜中だからか静まりかえっている。後片付
けを適度に済ませた志村家の一室にはしゃぎ疲れて眠ってしまったチャイナとメガネがぐっすり寝ている。
総悟と山崎はいつものごとくボコられた近藤さんを連れて先ほど一足先に帰っていた。俺はというと、志村
姉に礼を言って後片付けを手伝って彼らの後を追おうとしていた矢先、銀髪に引き止められてしまった。
ふいに熱くなるのは、コイツから渡された煙草を持っている手のひらと寒さにあてられた頬。その意外な熱
さに実感させられるのは俺の心にある理不尽な想い。

――はじまりは、敵討ち。きっかけはふと見せた意思のある瞳だったと思う。

最初は本当に大嫌いだった。ヤル気もなくて働かなくて、疲労を削って働いている人間にとってウザイと思っ
てしまうくらいの駄目男。だけど、ふいに見せる意志の強いまっすぐな力強い瞳とか、自分の正義をしっ
かりと持っている心とか、意外と芯のある言葉とか。
新しい表情を見せられるたびに、何故だか心が疼いた。その正体もおおよそ検討はついている。でも、多
分アイツはノンケだろう。どっちかって言うと俺は男でも女でも関係ないし、比べれば男の方が多かった気
もする。……男を見る目が悲しいくらい皆無なのが昔からの悩みだけれど。女は商売女くらいしか相手に
してないし…あれ?俺ってまともに恋愛してっかな?

「おおぐしくーん、トリップしてるとこ悪いんだけどお兄さんにちょっと付き合ってよ」
「多串君ってだれだっていつも言ってんだろーが!むしろお前はお兄さんとかおこがまし過ぎる」
「な……バッカお前、俺はまだ20代だっつの!!」
「四捨五入したら三十路だろ。30代に片足つっこんでんだろ」
「お前、男は30からだよ。いい感じに経験つんでんじゃねえか!!」
「だー!!もう良い!で?何なんだよ話しって」

『話がある』、そう言われた。何のことだか皆目検討もつかない。寒い夜道を歩きながら煙草をつける。相
手は原付を引きながら俺の隣を歩いている。煙草の煙を吐き出しながら横目で隣を見やると、なんだか苦
悶の表情でブツブツと、「あー」とか「うー」とか唸っていて、正直、気味が悪い。
悔しいのは、黙っていればかなりの男前だってことだ。実は俺より高い身長と筋肉が付きにくい俺に比べ
てガッシリしているガタイ。昔から女っぽくみられる俺のコンプレックスを大いに刺激する存在だと思う。
唸る銀髪を半ばシカトで歩いていると、丁度俺とコイツの帰る分かれ道にたどり着く。立ち止まって銀髪の
方を見ると、俺より少し後ろで立ち止まっている。
ふと合った目がいやに真剣に俺を射抜いてくるから、思わず心臓が大きく音をたてる。

なぜだか、胸騒ぎがする。
心臓が鳴り響いて止まらない。

「……ッ俺、こっち、だから話が無いなら帰るぞ!!」
「土方」
「………?」

ジリ、と音を立てて長くなった煙草の灰が地面に落ちた。
珍しく名前で呼んでくるこの男の声音や表情に頬が赤くなるのが分かる。もう灰がフィルターまで差し掛か
っている煙草を地面でねじり潰して銀髪と目を合わせた。



「すきだよ」

「言っとくけど、本気だから」

「愛してる方の好きだから」

「男とか女とか関係ねえし」



目が大きく見開いたのが分かった。標準が合わなくて銀髪の顔がぼやける。やけに不安そうにこっちをう
かがう奴の顔が可笑しいとか、大きく見えるはずの体が小さく見えたりとか、返事をしなきゃとか、色々思
うことはあるのに身体の芯が寒さで凍ったように動かない。
身体が思うように動かなくて、でも心臓の音と熱い身体だけは感じる。
無言で固まる俺をみて、銀髪が苦笑いをした。
p
「……ごめん。困らせるつもりじゃなかったんだけど…。忘れて、良いから。プーの戯言だと思って」
「違う!」
「………え?」

困ったように笑ってそう言った銀髪に、サァーっと頭が冷えた気がして止まった体の動きが始まった。
勘違い、だ。銀髪が俺の無言で感じたソレは。
ちゃんと、言葉にしないといけない。
だって、出会ったあのときからずっと心は捉えられて離してくれなかった。こんな気持ちになるのは本当に
久しぶりすぎて、脳が痺れて上手くいかない。
呼吸が、詰まる。
でも、

「……れも。」
「え?」
「俺も、好き。アイシテル、方の好き。男とか女とか関係なく、お前だから、好き…」

たどたどしく言葉を紡ぐと、ガタンと原付が倒れる音がして気がつけば銀髪に抱き締められていた。

「マジで?!」
「まじで」
「夢、じゃない?!」
「夢じゃない」
「嘘じゃない?!」
「嘘じゃない」
ぎゅうぎゅう抱き締めてくる腕を苦しい、と叩くとごめんと囁いて緩めてくれた。

「好きです」

もう一度言ってやると、くしゃりと銀髪が笑った。
頬に口付けられて、額に口付けられて、親が子供にやるような口付けがどんどん降ってきて、最後に唇に
触れるだけのキスをされた。




「幸せにするから」





抱き締められると、安心する。どれだけお礼を言っても言い切れないくらいの贈り物。
クリスマス、っていう心強いイベント。
すこしだけ、サンタって奴を信じても良いと思った。










END
もう少しあまーーい!って言えるものが書きたかったです。甘いですか?微甘な気が…(意気消沈)




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