あまりにも、突然で。あまりにも、唐突で。





08: 九分の恐怖と、一分の期待と





「逃げてしまった」



後悔と、激しい動悸だけがシンとした公園に充満している。乱れた息とジンワリと滲んだ汗に、本当に運動部なのかと苦笑した。
ポツポツ照らされる街頭に寄りかかって、この後をどうしようかと真剣に悩む。


本当に。


貴方の傍にいるだけで、どうしようもなくドキドキした。
触れられた部分がいやに熱を持っていて、言われた言葉が心に沈んで、改めて好きだと、実感した。


ああ、本当になんで逃げてんだよ、俺。


口調はいつものあの男とまったく一緒で、けれど目はいつもとは全然違った。
彼のことを考えていたときに突然現れて、告白されて。咄嗟に逃げたけれど。
走りながら、動悸を激しくさせながら、考えたのは自分にとって優位な場合。


もし本当に彼が自分を好きだとしたら。


追いかけて、もう一度言ってくれるだろうか。


それとも。


冗談だよ、って切り替えされてしまうのか?



予想は予想でしかない。
現実は、前者の考えのようにはいかないに違いない。ただの、スキンシップかもしれないじゃないか。あの破天荒な人間なら
やりそうなことだと、そう考えればいい。
特に考えはない行動だったのだと、へたな期待はしないほうがいいに決まっている。
いつもと違う変化には目を閉じて、触れられた温もりは心に仕舞って、気づいた想いには蓋をして。
いつもどおり過ごせば、きっと卒業なんてあっというま。
すぐに、忘れられる。
すぐに、次の恋ができる。
だって、
苦しい恋だったあの幼馴染への想いだって、忘れることができたじゃないか。


「……ふえ」


心が不安定すぎて、止んだ涙がこみ上げてきた。
ポツポツ灯る街灯に照らされて、洋式なタイルに少しずつ染みができるのは、きっと俺が思わず座り込んでしまったからだ。
目元をこする制服は、先ほどの涙で湿ったままでなんだかジメジメした。


「ああ、マジ俺って馬鹿だ」
「なんで?」


ずしんとした重みを、突然感じて抱き締められているのだと気がついた。



駄目だ、駄目だ。


駄目だ、


駄目だ。


仕舞った温もりがあふれ出てきて、閉じた想いが飛び出してくる。止まらない涙と、じんわり香る甘い煙草の香りと体温。
だんだん力が篭ってきて、溜息がこぼれた。


「好きだよ、っていったじゃん」


「俺は、返事を聞くまで絶対にお前を逃がさないから」


「20代後半のせんせーの淡い恋、軽蔑しないで?」




染み渡る、大好きなアンタの声。

滲む視界に、零れる嗚咽が止まらなくて。


もう一度、言って。






もう一回、思いを込めた言葉で、



「すき」



って言って。















END みじか!!









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