06「短小包茎のくせに何を言う!」「はっ、何故その秘密を…!」で、土方視点



「ありがとう」なんて、そんな切なそうな顔で―――




喧嘩 上等 十 課題





夜も更けはじめて、学校内には電気が煌々と点っている。夕闇が迫っている時間帯だが今日も今日とて、風紀委員
の仕事に追われていた俺は帰る時間がこんな夜になってしまった。もう、他のものは帰ってしまっていてきっと校舎に
残っている生徒も自分ひとりだろう。先ほど鍵も返したから、あとは教室に忘れ物をとりに行くだけだ。
忘れてしまった、宿題のプリント。確か明日提出だったはずだ。俺らしくないミスだと思った。

最近、自分はらしくない。気がする。
原因はなんだろう。なんて、きっと自分自身が分かってる。

何時だって「好き」だの「愛してる」だの言ってきたあいつがぱったりと言わなくなった。
普通の会話はするのだ。でも、そういうことを言わなくなった。確か、あいつが熱で倒れたくらいから。
今までのだって冗談だったのだろうか、なんて今更悩み始めている自分自身に苦笑いする。あんなに嫌だだの気持
ち悪いだの言っておいて今更なんだというのだろうか。こんな気持ち、お門違いだ。

「……だせえな、俺」
そう呟いて足を速める。早く帰るに越したことは無い。
忙しくしていればこんな気持ちになんてならなくてすむのだ。


カシャン、カシャン、



「ん?」

ふと、自分のクラスの前に来ると音が聞こえる。
覗き込むと、見慣れた銀色が黙々とプリントをホッチキスで止めていた。しかも、俺の席で。
どうしよう、と正直思う。
まだ整理はついていない。
プリントは、朝にしようか。早く来てやれば終わらない問題ではないだろう。

「って、何逃げようとしてんだ俺!」

というか、なぜあいつにビビらねばならない!
俺は男だ、鬼の風紀委員だ。こんなことで、ちょっといつもと変わったくらいでビビルなんて俺のプライドに反する。
そう思って、ガラリと勢い良く扉を開けた。

「あれ、多串君?」
「多串じゃねえって何度言ったらわかんだ?」

意外と普通の反応にほっとする。
って、なんでほっとしてる俺!あからさまにビビってた自分が情けない。心で自分に叱咤して机に近づく。
見れば、隣の机に他のプリントが重ねてあった。もう仕分けはすんだのだろう。あとはホチキスで止めるだけの書類
が山のように積まれている。それも、止める作業は先ほど始めたようでまったく進んでいない。

「なに、してんだ?」
「あー、仕事さぼってたらさ桂に見つかってこれくらいやれー!って」
「おわんのか?もう下校だぞ。」
「おわらせるんですー」

そう言ってまたホチキスで留め始める。
これが、こいつの意外なところだと思う。頼まれたことは最後までやる。普段はちゃらんぽらんだけど実は頼りになる
男。本当はすごく優しくて周りを見ている男なのだと、思う。
だから皆がついてくる、集まる。
俺はコイツのこういうところが嫌いじゃない。
だから、気になる。
最近のコイツの態度はどこか変だから。
このままではいけない気がするのだ。心の奥で、俺自身がこの状況に満足していない。
聞かなきゃいけない。
どうしても。

ふと、見えたのはもう一つのホチキス。
無造作に手にとって隣の席の椅子をひきずって座った。

「なに、どうしたの」
「おわんねえだろ、そんなんじゃ。手伝う」
「え、いいよ。わりぃって」
「うっせえ、そんでそこをどけ。プリントとるんだから」
「じゃあ尚更……」
「やるって決めたらやる」

無理やりだけれどこれくらいが丁度いい。
諦めて書類の束を差し出してきた。

「じゃあ左端ね」
「おう」
「ありがと、土方」
「……おう」

ふわりと笑われてなんだか居心地がわるくなる。
ソワソワする。
そんな気分を吹き払うように、黙々と手を動かした。










二人でやったせいか作業は意外と早く終わった。
とは言ってももうどっぷり日が暮れてしまっているが、こんなものだろう。野球部などはまだ部活をしているようだ。校
庭のライトが照っている。銀時と一緒に校庭を歩き、銀時は原付を取りに、俺は自転車を取りに駐輪場へ向かう。ガ
シャガシャと自転車をとりだすと、すでにひきずり出した銀時が待っていた。

「今日はサンキュウな」
「べつに」
「んじゃ、おれは」
「待て」

これで。と続く言葉を遮る。
どうしても、はっきりさせなければいけない。今までのが気の迷いでただのコイツのお遊びというのなら俺は何も気
にしなくて言いのだ。

こんなことが引っ掛るなんてどうかしてると自分で思う。普段の俺なら気の迷い、遊びだったのだと片付けるはずなのに。なんでかそれができそうにない。

「こういうの、はっきりさせないとなんか気持ち悪いからいうけど」
「あ?」
「最近、なんか変じゃねえ?」
「……どこが、変じゃねえよ」

変な間があったのが気に食わない。ハンドルを強く握る。

「変だろ、だって……!」
「………」
「言わなく、なっただろ。好きとか、そう言うこと」
「なに、たまってんの?」
「ちげえ!」
「あらん、そんなぁ!一発どう?満足させるわぁよぉ〜?」
「短小包茎のくせに何を言う!」
「はっ、何故その秘密を…!」
「……嘘だろ?」
「当たりまえ!俺のはすげーから。いっとくけどトシくんだってヘロヘロだかんね!」
「銀時!」

変にはぐらかしているのが見え見えだった。
強く名前を呼ぶとなんとも言えない顔をしてこちらを見てくる。何かを言いたい、でも我慢してるそんな顔。
ふう、と息を一つつくと今度は真剣な顔になった。その表情になんだか怯む。

「……なんか、いえなくなった」
「え?」

「俺のなかで、お前への気持ちがでかくなりすぎて気軽に言えなくなった」

そう言って、小さく笑う。

「ぎんと、」
「土方、」


「俺は、お前がそんくらい好きだよ。本気で好きだ」



あまりにも、穏やかに静かにそう言うものだから、俺はなにも言えなかった。頭が、上手く機能してくれないんだ。
暫らくの沈黙のあと、銀時が動いた。



「……聞いてくれてありがと、それから、ごめん」



じゃあな、なんて軽く笑ってエンジンをかけて去っていく。




聞かなければよかった――?
他愛も無い会話が楽しくて、罵りあいだって過剰なあいつの愛の言葉だって本当は
楽しくて。
今日だってそうだったはずなのに。そんな関係にもどろうとしたはずなのに。
なのに、「ありがとう」なんて、「ごめん」なんて、あんなに切なそうな、泣きそうな顔で言うんだ。
縋る様な子供の目で。



あんな顔、させたくないと思う。
させてしまった自分に、返事も聞かずに謝った銀時に憤りを覚える。


聞かなければよかった?
本当に?そう思ったのか?






ドクリと心が、動く。
それがなんだか、まだ俺にはわからない。






俺は、暫らくそこから動けなかった。





NEXT

動き出しました。そろそろ!次は銀ちゃん視点で。

2009.03.25

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