最初は、大嫌いだった。



喧嘩 上等 十 課題 




朝起きたらものすごく身体がだるかった。でもやっぱり好きな人に会いたいという乙女心で学校に這っ
て来たけれども、やっぱりだるい。
頭もボーっとするし、何より鼻水がすごい。完璧な風邪。
今日も大騒ぎなクラスを横目に真っ直ぐ自分の席について机に突っ伏す。でも下を向くと鼻水がすごく出
てくるからズルズルとすすりっぱなしだ。
なんだかクラクラするし、なんかもう駄目かも。

「坂田、」
「おー?」

声を掛けられて振り向くとそこには土方くん。
p いつもの鋭い表情ではなくなんだか心配そうだ。本当に優しくて良い子。

「お前、大丈夫かよ」

あ、この台詞懐かしいかも。
そういえば、
高一のこの時期だっただろうか、おれがコイツに惚れたときもこんな風に風邪をひいていた。





***



38度7分。
立派な高熱。朝から全く変わっていない。しかも今の時間は夕方だ。学校ももうすぐ終わるだろう。
朝からぶっ通しで寝ている割に熱は下がらないし食欲も皆無だ。
学校にも連絡し忘れたから、実質無断欠席になるだろう。
これでもし明日風邪が治って学校に行ったら我がクラスの目つきの悪い風紀委員が煩いに違いない。
俺の中で風紀委員である土方十四郎はいけ好かない奴ナンバー1だ。
目つきは悪いし口も悪い。会うたびに服装やら髪型で喧嘩を売られてウザイったらないし。
この前の月1の風紀検査は白髪染め持参できやがったし。その前はスプレー。その前は何だったか、ペ
ンキ?墨汁?とりあえず黒くすることに必死なようだ。
人間、黒かろうが白かろうが中身だろ!不良っぽい奴が実は優しいっていうギャップがいいんだよ。
そんな風紀委員にどやされないためにも、学校に連絡くらいしておこうかと充電しっぱなしの携帯を開くと
桂から何通も連絡が来ている。文字を読むのさえ億劫で気持ち悪いからスルー。
一番流して聞いてくれそうな、それでも俺が風邪を引いたなんて絶好のネタを放置しそうにない奴の番号
を画面に呼び起こす。
癪な話だが、コイツなら嬉々として学校中に言いふらすだろう。「馬鹿が風邪をひいたー」と。

「つーわけで、低杉〜、俺休むからー」
『何がというわけで、だ。今何時だと思ってんだ?あ?もう終業だよ。おせぇんだよ連絡が』
「長谷川に上手く言っといてよ。銀時君は45度の熱で休みでしたって」
『ああ、勃たなくなって頑張ってます、って言っとく』
「ばっか!おれはバリバリだよ!……って冗談抜きでマジやばめだから、そろそろ切る」
『おお。まあ頑張れ、今日そっちにおめえの大好きな土方君行くから』
「はあ!?好きじゃねえよ!ってか何で!」
『大事な配布物があんだと。俺ら今日お前に会えるほどヒマじゃねえのよ。だから面白そうだから土方に
頼んどいたからよー』
「死ねよ、バカ杉!!おまえ風邪悪化したらどうなる!!」
『潔く死ね。じゃーな』

ブツ。

切られた。最悪だろ。意味わかんねえって。
熱があってフラフラなのに日ごろから気に入らない奴の顔なんか見なくてはいけないなんてどんな拷問だ
ろうか。
学校から俺のうちまでは自転車で20分くらい。
いつもは原付で通うからもっと早い。
今が終業だから来るのはもう少し後か。まあ、居留守でいいか。勝手にポストに入れておいて欲しい切実
に。
フラフラの体を動かして、ミネラルウォーターを一口。キャップは閉めないまま床においてそのまま俺はベ
ットの中で瞼を閉じた。




ピンポーン。

耳の奥でインターフォンが聞こえる。でもだるい。起きたくない。本当にやだ。
居留守してやる。絶対でない。出て溜まるものか。帰ってしまえ。

ピピぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴんぽーん。
ピピピピピピピピピピいぴぴぴぴいいぴぴぴぴぴんぽーん!!
ぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴいぴ……

「うっせあぁぁあぁ!!!!」
「よお」

バタンと、勢いよくドアを開けるとしれっとした顔の風紀委員が立っていた。
今日も絶好調か。
元気そうで何よりだ。
体力を急に使ったせいでものすごくグルグルする。

「よお。じゃねえ!!おまえ、こっちは38度だよ?フラフラなんだよなんも食ってねえんだよ気をつかえ
よ!手紙なんてポストに入れて帰ってくれませんか!」
「手紙?」
「ああ?高杉が重要な手紙がって、―――っ」

あー、やばい。
目の前が真っ暗になった。
耳の奥で焦ったような声が聞こえる。ああ、こんなコイツ初めて見たかも。
暗転。







……なんか、くるしい。
目の前、白い?なんで?ってかなんか乗ってる?なんか苦しい―――。

「――っ!!」

ガバリと思い切り起き上がる。顔の上に乗せられていたのは真っ白い濡れタオル。
いやいやいや、

「死ぬだろ」
「いや、死なない程度に起こす方法だったはずなんだ」
「『はず』で殺されてたまるか!!ストップ青年犯罪!」
「まあ、いいや。ほら、これ食うか?」
「お前会話しようって気持ちある?……って何これ」
「おかゆ。と薬」

なんで。
いや、ほんとになんで。
用意されたのは家にあったのか不明な白米のお粥。添えられているのはこれまた家に合ったのか?な梅
干。それにコップに汲まれた水に市販の風邪薬。
それらがきちんとお盆に乗って差し出される。
ふと周りを見ればいつの間にやら自分の部屋のベッドに寝かされているし、デコには冷えピタ。氷枕まで
用意されている。
至れり尽くせりだ。
これでデザートなんてあったら……。

「あ、食欲なかったらヨーグルトとかにしとくか?」

お前、嫁か。
コイツと俺は犬猿の仲のはずだ。
それにコイツはプリントを届けに来ただけなんじゃなかったのか?
「土方くんさ、長谷川のおっさんからプリント預かってきたんじゃないの?」
「あ?違うぞ。俺は高杉に放課後いきなり呼びとめられて、風邪ひいた坂田が心配だが、俺たち用事が合
って会いにいけない。だから土方様子見に行ってやってくんねえ?って言われて、擦れ違いざまに薬と地
図を……」
「で、来ちゃったの?」
「………薬とか、大事だろ!ばっくれれないだろ!」

ということは、あの電話で高杉が言ったことは決定事項じゃなくて予定だったのか。俺が風邪と分かって
急に思いついた悪戯だったのだ。
嵌められた。治ったら覚えてろよ高杉……!!

「ついでに飯も食わせてやってくれと桂に言われたから、お粥を」
「え。まさか」
「作った」

ええ!まともな料理じゃねえか!
普通に旨そうなんだけど。

「食えるなら食って、薬のんじまえよ」
「あーうん、頂きます」
「マヨネーズいるか?」
「いらねえよ!!」

そうか?としょんぼりしないで欲しい。いらねえよ。なんだお粥にマヨネーズって。そんな食生活だ。
そう思いながらお粥に梅干を和えて一口。
……普通に上手い。
米の柔らかさも絶妙だし、梅干のおかげでサッパリしてるし。
朝から何も食べてなかった腹には優しく溜まる。すぐにペロリと完食してヨーグルトにも手を出した。それす
らもペロリと食べ終えて薬を飲む。
何の嫌がらせか粉薬のおかげで口の中が最悪に苦くなった。水を一気に飲み干して一息ついた。
食べ物を口にしたおかげで比較的元気になったと思う。

「ごちそうさまでした……」
「おー、おそまつさん」

それにしても、今日のコイツは可笑しい。
人の風邪なんて冷笑とともに鼻で嘲笑いそうなのに今日は大人しいし怒鳴らないし。
なんか借りてきた猫みたいでムズムズする。
今思えば、いつも喧嘩してる原因は俺の服装とか生活態度のせいであり、更に口の悪いこいつの言葉に
俺が口悪く返して口論になってしまうのだ。
コイツは仕事をしているだけであって、邪魔しているのは俺、なのか?
コイツと二人きりになって穏やかな空気になるのは初めてな気がする。
ちゃんと話したことなんてねえけど、実はいい奴なんかな……。顔も綺麗だし。よく見れば睫毛だってバシ
バシだし。色白くないか?女にもてるんだろーなあ。「ごちそうさま」って言って「おそまつさん」って言った
ときにちょっと照れてて可愛かったっていうか――いやいや、無い無い無い!
それにしても。

「今日優しくね?」
「病人にまでいつもみたいにしねーよ。それに、」
「あ?」
「………いつもは、やりすぎてっかなあ、って、思う、し、………悪かっ、た、な」


「―――――っ!!」


そんな、お兄さん。
顔をほんのり赤らめながら上目遣いでそんな。
熱に侵された頭で考える。

「お前、顔真っ赤だぞ大丈夫か?」

覗き込んでくる顔に確信する。



ああ、俺ってギャップに弱ェんだ―――――。










***

そうだ、あそこから嵌ったんだ。
ゆっくり目を開けると心配そうな土方。

「………え?!」
「ぶったおれたんだろーが!起きんな馬鹿」

勢い良く起き上がろうとする俺の肩を土方が押し返す。
大人しくベッドにもう一度潜る。まわりを見渡せば保健室のようだ。学校まで這ってきたはいいがぶっ倒れ
たのか、ダサすぎる俺。

「あーだせー!俺!!」
「お前がだせーのはいつもだボケ死ね」
「俺が死んだら鼻水垂らして泣くがいいよ…」
「お前が死んだら大宴会してやるよ」

そっぽを向いて嘲笑う土方。
優しいこいつのことだからすごく心配してくれたに違いない。

「迷惑かけて、ごめんね?」
「……別に。無理はすんなよ?」

ぐしゃりと頭を撫でられる。それが気持ちよくて目を細めた。猫みたい、と笑う土方が可愛い。
あー、熱で頭がぼーっとする。
撫でてくる手をぎゅって握って。

うん、やっぱりおれ、

おまえが、



好きだなあ……。



「ありがと、土方」




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好きになるきっかけってのは何所にでも転がってるもんですよ。


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