ちょっと前にやっていた極道先生ドラマの主人公2人のお友達みたいにヘアピンで銀色の髪を纏める。
いつもよりちょっと派手目に着崩して、愛車・銀ちゃん号の鍵をもってさあ出発だ。
愛しの君が待つ、

………戦場に。



喧 嘩 上 等 十 課 題 




愛車のスクーターを風を切りながら走らせる。3年になってそれなりの日数が経ち、風は春の心地がして
気持ちがいい。口笛を吹きながら運転していると我が学び舎である銀魂高校の校門が見えてきた。
大勢の人だかり。
毎月恒例の風紀委員による風紀検査である。ある意味うちの学校の名物といっても良い。
風紀委員が行う風紀検査は問答無用で厳しい。
校則に沿った格好をしていない生徒は速攻でブラックリストに書き込まれ再登校が言い渡される。もちろ
ん、その分の授業時間が免除になるわけはなく、欠課扱いになる。
そしてブラックリストに載った者は次の風紀検査、および通常の生活において一般生徒以上に目を光らせ
られる対象となるのだ。だが、風紀委員だって鬼ではない。ブラックリストに載っても次の風紀検査を無事
に乗り越えれば記名は削除される。一ヶ月の我慢だ。
……そんな鬼の風紀検査にワザと引っ掛りにいく俺って、好きな子を苛めちゃう小学生みたーい。
そんなことを思いながら大きくブレーキ音を立てながら人だかりに突っ込むと、群れていた生徒達が左右
に引いた。校門に一列に並んでいた風紀委員の目線が痛い。
逆に、生徒の目はほっとしたような色が宿る。
まあ、俺が到着すれば死ぬほど厳しい風紀副委員長様の目を掻い潜ることが出来るってーのは事実だ。
彼の目は容赦がない。

「おっはー、トシくん。今日も可愛いね」
「おはようゴザイマス、坂田会長。今日も頭が悪そうですね」

スクーターから降りて、ヘルメットを取る。それから土方の傍によると無表情で厭味っぽくそう言われた。
俺としては「銀時、おはよう。今日もカッコいいな」なんて恋愛シミュレーションでも言わない様な歯が浮く
台詞を言って欲しいというか何と言うか。

「今日もイカれた格好だな、おい。短い足をわざわざさらに短く見せなくてもいいんじゃねえの?」
「やだな、君の彼氏になるこの俺の脚が短いわけがないじゃん?超長いよ?オレ、八頭身だよ?」
「…学ランさえ着てねえといっそ他校生だな。もう転校したらどうだ?」
「そんなんしたら土方君が泣いちゃうでしょ!」
「……人間なんて穴だらけなのにさらに穴をあけて、なんかマゾだな。キモい。女みてえにジャラジャラと」
「俺は土方君の穴に入りたいなー」
「…………っっっ死ね!!!天パ!!ヘアピンで抑えたところでもじゃもじゃなんだよ!!」
「ちょっと、結構このヘアピンの付け方大変だったんだからぁ!」
「なんでちょっとオンナ口調なんだよ!キモい!」
「そんな俺がすきなんだろ?」
「………一回死んでみるか?天国見せてやるよ」
「俺今日アリ殺したから地獄行きかもしんない」

しれっと答える俺に、いつも以上に土方の瞳孔が開かれる。
一般ピープルなら竦み上がってしまうだろう目つきの悪さにニヤリと笑ってやった。
3年前、1年の時から変わらないこの風紀検査のときのやり取り。
彼に目を留めてもらう一身で、それとほんのすこしの意地の張り合いで、絶対に制服を正しく着て来ような
どとは思わなかった。どこか違反していれば彼の目は俺を見てくれるのだから。
最初は突っかかってくる土方のことがうざったくって仕方がなかった。だからといって自分を曲げるなんて
いやだったから余計に違反をして喧嘩をした。今の心境とは雲泥の差だ。
飽きることなく毎月毎月こんなやり取りに付き合ってくれている土方も対外負けず嫌いだ。
一見クールに見えるのに実は熱血漢な節がある。
ギャップに惚れるとはこの事か。
仏頂面が可愛く笑うところとか。気持ちを表すのが下手なところとか。嫌いだ嫌いだと言ってくるくせに本
当は嫌っていないと態度で分かるところとか。
あれ、ツンデレ?今流行のツンデレですか。

「オレは土方が大好きだぜー」
「俺はお前が大嫌いだよ」

もうムカつくからさっさと行け!てか帰れ馬鹿!と吐き捨てるように言って俺の愛車に蹴りを入れる。
仏頂面も可愛いな、なんて思う俺はもう駄目かもしれない。
3年越しの片思いです。
その相手はミジンコほども俺の気持ちに気がついてくれません。

「つらいなー」
「………具合でも悪いのか?」

苦笑気味にボソリとギリギリ聞こえないラインで呟いたつもりだったのに。
心配そうにこちらを見てくるその目は俺を恋慕に駆り立てたときと同じ目をしていた。
そういえば、この目に惚れたのだったか。
男はギャップに弱いのだと、改めて思い知った15歳のある日。

「トシ、今日は弁当?」
「あ?いや今日は学食」
「じゃあ一緒に食べようよ。俺も今日はないから」
「お前はいつもだろ?ちゃんとした食生活送ってんのかよ」
「マヨラーに言われたくないです!!仕事、まだかかるの?」
「まあな。さっさと教室へ行け。そして俺の仕事を楽にしろ」
「えー」
「えー。じゃねえよ、行かないなら死ね!!」
「酷い!!」

そうやってぎゃーぎゃー騒ぎながらスクーターを置きに駐輪場へ行く。チャリンコと並べておかなければな
らないこの苦痛は3年前から変わっていない。
ふと、歩き出した足を止めて仕事をする土方を見ると女の子が話しかけていた。
たしか、松平の娘で高1の松平栗子ちゃん。
ギャル男みたいな彼氏と付き合っていたはずだが。別れたんだっけか?

彼女の目は、俺と同じ恋をする目だ。

胸が痛い。
こんなこと何度だってあったはずなのに。3年生という、高校生活最後の年に縛られて気持ちばかりが急
いてゆく。
そろそろ決断の時期なのか。
あたって砕けろなんて、そんなのいやだ。砕けたくない。本気で好きだから。



でも、


それでも、

どうしたって、俺はこの生暖かい関係から抜け出すことが出来ないのだ。







ああ、俺はどうしようもなく弱虫だ。






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恋をすればだれだって弱虫です(ぇ
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