文句は言えども、実は結構楽しんでいることも、
苦手なわりに嫌いなわけじゃないことも、
全部アイツにはヒミツ。



喧 嘩 上 等 十 課 題 




銀魂高校。
スポーツ面では類まれなる力を発揮し、頭脳の方も十分な成績を収める文武両道をモットーとしている県
内の中堅公立高校。文武両道を目指す一方、どこかに秀でている生徒であれば例え性格やら素行やら
に問題があろうともどんな生徒でも受け入れる寛容さを合わせ持っている。ゆえに生徒数は多く、キャラも
濃い。自由な校風とスポーツ面での成績、中堅校の学力が人気に拍車をかけ、毎年の入学希望者は後
を絶たない人気高校。
だがしかし。
それは学校案内対受験生用に作られた奇麗事のキャッチコピー。
事実は大分捻じ曲げられているのだ。『自由な校風』という一言によって。
実際のところ、服装やら素行やらが乱れているのは一般的高校生なら多少やってしまうだろう。だが、うち
の学校の道の逸れ方は半端ない。手加減がない。基本的に捕まらなければ黙認なのだ。ようはしっかり
単位をとってちゃんと卒業すれば何をしようと構わない、というろくでもない節が見受けられるのだ。
剣道も強いし、公立だから安いし、家から近いし、余裕で合格圏内だし、なんて軽い気持ちで高校を選ん
だ三年前の俺、今すぐ考え直してくれ。
そう思わざるを得ないほど、俺の周りは荒らされている。
静かな日常に戻りたい。

「なーに、シリアスに語ってんだよ、風紀副委員長土方様?」
「黙れよ、極悪生徒会書記の低杉くん」
「誰が低すぎだ!言っとくけどまだ伸びてんだぞ!!」

ボーっと屋上から校庭を眺めていると、急に背後から声を掛けられた。声音ですぐに分かる。我が校の生
徒会執行部、書記の高杉だった。左目に眼帯、黒いパーカー上履きではなく室内用のスニーカー、口に
は煙草。着衣している制服はスラックスだけ。一方、俺はというとワイシャツにベージュのカーディガン、ス
ラックスと薄汚れた上履き。一般的な高校生の服装。

「シリアスに語りたくもなるだろうが!三年間風紀を正しても、お前ら生徒会が片っ端からちゃらんぽらん
だから乱れる一方だし、あの腐れ外道が仕事しないから何故かうちに仕事が回ってくるし!うちは生徒会
補佐じゃねえ!風紀委員会だ!」
「天パに言えよ」
「アイツじゃ、話が通じない!お前でも通じないが、奴だと尚更通じない!人の言葉を理解しろ!理解でき
ないなら星に帰れ!!」
「……そうとう八つ当たりだなお前!」
「唯一、文句言っても素直に聞いてくれんのお前ぐらいなんだもん」
「……だもん、とか。かわいいだけだぜ?」
「キモい!!そうだった、お前もアイツと一緒の人種だった!!」
「一緒にすんな」

『アイツ』つまりは生徒会会長、つまりは坂田銀時。高校1年から同じクラスの腐れ縁で、高1のときの生
徒会選挙に悪友たちに引きずられるように参加し、生徒会長となった男。やる気の無い性格の割りに成
績優秀スポーツ万能。いざと言う時にはやるが、そのいざと言う時の範囲は異っっっ常に狭く、いざと言う
時意外は絶対にやらない。
その割りに生徒の支持率は高く、結局3年間生徒会長をやり続けている。
そして、俺は奴が心底苦手だ。

「ま、いいや。心優しいトシくんが煙草一本恵んでくれたら、言っておいてやらんこともない。ストック切らし
ちまったんだよ」
「………今言え。携帯使って今言え!明日提出の書類がまだ来ていないし、そちらに渡したうちの書類
の印鑑はどうした、って今言え!!」
「……あーはいはい」

ワイシャツの胸ポケットに忍ばせておいた煙草を、ケースごと投げつけるとニヤニヤしながら携帯を開い
た。片目の男の顔は、心底楽しそうでなんだか背筋がゾクゾクする。嫌な予感だ。

「はぁ〜い!ぎんちゃ〜ん、あ、た、しぃ」

繋がった通話は、ブツ!っとコチラにも分かるくらい大きな音で電話が切れた。
確かに強面の男が無表情で今の台詞を言えば相当キモイ。視覚的に相当引くのだから、声だけならなお
さら気持ちが悪いだろう。高杉は一回小さく舌打ちして、もう一度電話を掛け始める。どうやら今度はしっ
かりと出たのか、一言二言話すとコチラを見ながらニヤリと笑った。

天敵の悪友が、笑った。

「お前の愛しい愛しいお姫様から、おめーに大事な話だってさぁ。東棟の屋上にいっから1分で来いよ」

その言葉に真っ青になる。

「………っ、馬鹿、たかすぎ!!」
「へーへー、じゃーな」

ブツ、と通話を切って携帯をスラックスのポケットにしまった。
信じられないものを見る目で高杉を見ると、不適に笑う。

「おーまーえー!!」
「俺を信じたお前が馬鹿だったんだよバーカ」
「ああそういえば馬鹿にも値しないなお前は」
「当たり前だろう、馬鹿なはずがねえ。天才だからな!」
「そういう意味じゃねえよ!!」

尚の事くってかかろうとすると、勢いよく屋上の扉の開いた音がした。
ああ、来てしまった。こんなに早く。
俺がアイツを苦手な理由、それは。

「多串君、やっと決心してくれたんだね!!おれ、俺絶対幸せにするから!!子供は3人、まずは女の子
がいいな!家庭が落ち着いたら子犬を飼って子供と一緒に成長を見届けようね!!」
「何所まで妄想した、お前!!」
「あいしてるよー!!」

………ある日突然始まった、この求愛活動のせいだ。
それはある日突然だった。その日まで俺の事が気に食わない、と態度に出してはばからなかったこの男
が、急に「おれ、多串君のこと好きかもしんない」なんていいだした。
それ以来、毎日のように続く求愛活動。
高校で出来た気の合う悪友のちょっとした悪戯だと思っていたが最後、その行為は長くそれはもう根強く
続いている。奴には男同士だとかそんなものは関係ない。おれもそんなことにはあまり偏見は抱かない
が、奴の爛れた交際経験はなかなか『愛してる』なんて言葉を本気に出来るほど立派なものじゃない。
女は日替わり。同時攻略。
その事実を目の当たりにしてきた俺には冗談にしか聞こえない。

「昨日はA組の加藤だったか?」
「あ〜、違ぇよ晋ちゃん。C組のミキちゃん……だったっけ?」
「……ほほう」
「………はっ!!」

やっぱり。
好きだ、愛してる、だの何だのいい続けている割にコイツの女遊びは留まることを知らない。明らかにカマ
を掛けた高杉の挑発に乗っている。
「いや、ちがっ!!……っおいコラ、低杉!おめえ余計なことを……!!」
「なんのことかなぁ?土方、この煙草弱いんだよ、満足できねえから返す。ってことで、用件は自分で言
え。じゃーなー」
高杉の掌で弄ばれていた煙草が投げつけられる。空中でキャッチしてひと睨みすると、ヒラヒラと手を振
って校舎の中へ消えてしまった。

「さて、生徒会長様」
「なんか嫌味な言い方!!」
「コチラに渡していただきたい書類と、提出した書類のチェック、その両方とも期限は本日付となっておりま
すが、書類の方は出来上がっておりますか?」
「……突き刺さるストイックな敬語もめっちゃ胸キュンだけど、あいにく俺Sだから甚振られるのは…」
「誰がそんな話をした!!さっさと書類出せや!!」
「婚姻届ならすぐにだせるぜ!」
「いらんわそんなもん!!」

殴りかかると同時に、きゃーと逃げていく銀髪を追いかける。
延々と続く攻防戦。
こんな単純作業で今日も1日が過ぎていく。他の生徒はまたかという顔をしているし、俺自身もそう思う。






でもまあ実は。
文句は言えども、実は結構楽しんでいることも、
苦手なわりに嫌いなわけじゃないことも、
全部アイツにはヒミツ。


これから、アイツと俺の関係がどう転換していこうとも。
こういうクダラナイ喧嘩は出来る仲でいてほしい、なんて。

そんなことを思っていることも、もちろんヒミツだ。






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オチなんて上手くいかない……!!!
始まりました…。同級生銀土です。
まだ銀→土です。ちなみに、もっぱらギャグです。ちなみに御題は、
1 「俺を信じたお前が馬鹿だったんだよバーカ」
  「ああそういえば馬鹿にも値しないなお前は」
でした。

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