望みは、ただただ一つだけ。

 

 

 

10: どうか、幸せに。

 

 

 

 

あの人、つまりは近藤さんに拾われたのは随分と前のことで。
俺がまだまだガキで、あの人もガキでそして貧乏道場を継ぐちょっと前。そんでもって戦火が激しかった時代。
戦争は佳境に入り、ますます被害が大きくなっていた。もちろん、戦争の暗い影も日に日に膨張していた。
道場にはゴロツキが集まり、ろくでもない野郎共が理想を求めて剣術に励む。
そんな、時代。

 
戦火で家族を亡くして、泥沼のような生活を味わった。
「死にたい」と、想う一方で、不条理な世の中に対する恨みや憎しみに突き動かされるように這い蹲って生きた。
丁度良く、飽き飽きしながら働いていた職場に戦禍が降りかかった。
良い機会だ、と。
そう想って。必死であの牢獄から逃げた。家族を失ってすぐに就いた職場はまるで地獄のようなところだった。
生きる希望も、戦争に対する気持ちも。すべて要らないものとし、自分自身を押し殺してただただ働く。そんな地獄。
混乱に紛れて、必死に走った。走りつかれて荒地にへたり込んで、「あぁ、やっと死ねるのか」とか思っているときだった。

 

気を失った俺は、あの人に拾われた。

 

目が覚めるとそれなりにきちんとした部屋で、遠くに聞こえるのは竹刀がぶつかり合う音。
体中の包帯と、自分よりも2つくらい年上であろう青年。
「目が覚めたか」と、頭をわしゃわしゃと撫でられた。太陽のような笑顔と屈託の無い言葉。
あの人との出会いで、俺の中の屈折した感情や自分に対する世の中への不満も、何もかもあの人が取り除くのにそう時間はかからなかった。
初めて出来た仲間と、大切な人と、笑いあえるようになってから暫らくして総悟と出会った。
山崎や、ほかの隊士達にも出逢い戦争が終結した。
その頃には、俺はもうすぐ20歳で、近藤さんに限ってはもう20歳を過ぎていて。
刀狩が始まった。
剣を奪われ、なすすべも無い。そんな状態で近藤さんはいつでも輝いていた。苦しい状況下でもあの人のなかの決意は一回も揺らがなかった。
そのうち、『真撰組』が誕生した。隊士も増え、『真撰組』は警察の中の自他共に認める大きな組織となった。
後に、攘夷派の活動も活発になって、今に至る。

 

 

 

 

 

 

 

「……とまあ」


思い返してみると案外怒涛の人生で、そしてあの人の影響は半端ではないらしい。
縁側に座って、晴天の空を見上げた。

 

いつ頃からか、あの人を想い始めて。
いつ頃からか、あの人は恋をし始めた。
いつしか、自分の中の無いと想っていた激情を感じて。
いつしか、嘘もポーカーフェイスも上手くなった。

 

「もう、何年になるんだろうな」

 

あの人に出会って。
あの人に恋焦がれて。
数え切れないくらいたくさんの日々を共に傍らで過ごしてきた。4つの季節を幾度と通った。
伝えられない思いなのだと、気づいたのは思いに気づいてすぐだった。
荒れ狂う激情に苦しくなったり、涙がでたりすることもあった。
彼が人を好きになるたびに、醜い感情が表に表れるのを必死で抑えた。

 
きっと、これからもこの気持ちは言わないだろう。
言ったとしても振り向いて、くれないだろう。
だって、自分は彼の『大事な親友』なのだから。
それならば、その『大事な親友』を演じてみせる。誰でもないあの人のために。
それは、いつのころからか、自分の中で建てた俺が生きていくための大切なルール。

 

 

俺に、人として大切なものを。
生きていくうえで必要になる感情や物事を。
教えてくれてありがとう。
こんなにも与えてくれたあなたに俺はなにかお返しが出来ているとは思えないし、まだ自信はないけれど。

 

 

どうか、

 

どうか、

 

幸せに。

 

 

この青い、空に願う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 END

 

 

 

 

あとがき。
ポエマァな土方さん。捏造にもほどがありますね…(汗)

 

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