もしも俺が女で。
それでもやっぱり貴方が好きだったら……。

 

 

 

 06: もしも・・・なら。

 

 

 

錆び付いた臭いが漂った。
しくった、とか想う。書類で指を切るなんて、いつ振りのドジだろうか。
しかも結構深くて、ゆっくりと痛みが迫ってきた。まともな書類を作れる奴らが居ないからこんなことになるのだ。
とか、心内愚痴を溢して、傷ついた人差し指を舐めた。
口内に鉄が広がるが、少しの間舐めても一向に血が止まる気配が無い。細い傷口から血が漏れてくる。
絆創膏は無かっただろうか。たしか引き出しの中に、あったはず。
コレくらいの傷で救急箱を取りに行くのも面倒だ。それに、怪我をしたと知られた日にはきっと大笑いされるに決まっている。
そんなのはごめんだった。
僅かな希望を胸に引き出しを開けるが、期待していたものは入ってはいなかった。
入っていたのは筆記用具と印鑑やらなにやらの文具類。
はあ、と一回溜息をついてもう一度傷口を見ると、もう少しで血が止まる兆しが見えていた。
これはラッキーだ。空気にさらされて傷口は痛いが、「あの副長が」などと大笑いされるよりは幾分ましだ。
丁度良く利き手ではなかったし、作業にも支障は出ないだろう。

 
「トシ〜。茶でものまねぇか?」
「おかえり、近藤さん」

 
外回りついでにストーカー……違った。ストーカーついでに外回りだったか。
一人の、しかも結構年下の少女に夢中になっているアホ局長は長年の俺の想いなんてなんのその。日々女のケツを追っかけている。
毎日の習慣であるストーカーを終えて、書類をやろうともしないコイツは茶を差し出してきた。
少々の苛立ちや疲労感はこの人の笑顔でふっとぶから、人間は不思議だ。

 
「ありがとよ」
「いやいや。……ってトシ、指どうしたよ」
「あぁ、書類でちょっとな」

 
茶に伸ばした手を強引に掴まれる。
一筋入っている傷跡をしげしげと見て、いたそうだなぁ、と感想を漏らした。いてえよ、と呟くと慌てて謝罪して手を離した。
ちょっと、もったいないとか想ってる俺は末期だ。

 
「なあ、近藤さん」
「ん〜?」
「俺が、さ」

 

もしも女だったら、あんたはどうする?

 

あぁ〜……目瞠ってる。そりゃあ変なこといった自覚はあるけどな。そんなビビンなって。

 

「……トシは女性だったか?」
「んなわけねぇだろ。何年一緒にいるんだよ。あんた。ものの喩えだ」

 
「ん〜」とうなりながらもしっかりと考えてくれるあたりでお人好しだ。
その真剣な姿をみつつ茶を飲んだ。

 
「そうだなぁ。もしトシが女でも俺の『親友』にはかわりねぇんじゃねえか?」

 
今度は俺が目を瞠ってしまう。どう足掻いても『親友』止まりですか。あぁもう、何か聞くんじゃあ無かったかな。
この人は、『親友』の俺に『親友』らしい返答を返してきたのだ。


ならば、


ならば俺は、その期待に応えるためにも『親友』らしく冗談で終わらしてやろう。

 

「だな。」
「おうよ」

 

思ってもいない同意の答えを紡ぐと、満足げに満面の笑みが帰ってきた。瞬間沈んでいた気持ちが少し浮上する。
現金だなあ、とかおもいつつ笑ってやる。

 

 

 

だけど近藤さん。


もし


「もしも」なんて有るはずがないけれど。
けど、もしも俺が女だったら。そんでもってやっぱりアンタが好きだったら。
俺は卑怯だから、無理やり襲ってアンタのガキを生んでいたかもしれない。子供を生んで、それでアンタの前を去っただろう。


……なんて出来るはずの無いただの妄想だけど。

 

 

 


こんな事想っているなんて貴方が知ったらどうなるだろう。
怖くて、怖くて、言えないから。

 

 

 

 

 

ただの想像のままで、終わらせてください。
まだ、俺の中の狂気に気づかないでください。

 

 

 

 

 

 

 

 

もしも、なんて有るはずが無いことくらい貴方を想う愚かな俺でも分かっているから。

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき。

暗い!!くらいですよぅ・・・・・・

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