あなたは、確かにそこに居た。



僕 ら の 太 陽 (六月の花嫁番外編)



<沖田編>


病室は、アンタと同じくらい真っ白で。
花瓶の花だけが色彩鮮やか。

「どうした?総悟」
「………」
俺に笑ってくれるその顔は死が滲み出ていて、俺は子供のように泣きそうになった。
そんな俺の変化を感じ取ったのか、おいで、と入り口に立ちっぱなしだった俺を手招いてベッドの傍まで
導いてくれる。持っていた花束をベッドサイドに置いて、頭を撫でられる。

「あとは、頼んだぞ」
「………っ」
「近藤さんも、真撰組も、俺がいないと心配だから」
「……わかって、やすよ」
「ああ、でも」

お前も十分心配だな。

そう笑った顔に、とうとう涙があふれ出た。それを見た土方さんは、苦笑して頬を手で包んでくれる。
温かくて、生きているのだと分かった。


昔から、優しかった。
怪我をすると、おぶってくれた。
頭を撫でて、慈しんでくれた。
優しい笑みで、いつでも見守っていてくれた。
ねえ、大好き。
だから死なないで。

「死な、ないでよ。置いて、行かないでよ。ずっと俺の……っ!」


俺の、大好きな兄ちゃんでいてよ。


くしゃくしゃになった俺の顔を伝う涙を、何度も何度も掌でぬぐってくれる。
ごめんな、ありがとうな、俺も総悟がだいすきだぞ?
そう言いながら、何度も宥める彼の手は、優しい感触がした。

「なあ、総悟」
「……?」
「もし、また会えたら。俺の背中、押してやってくれや」
「……なに……」
「頼んだぞ」

言葉の意味は、まったく分からなかった。でも、そう言ったあの人の顔は真剣で、頷かざるを得なかった。
その数日後、あの人は笑顔で逝った。
俺は、壁に想いをぶつけるしか出来なくて、泣いている人たちに何もすることが出来なかった。


そして1年後、俺は言葉の意味を知ることになる。
あの人に頼まれた、俺だけの遺言。
俺は、アンタに何も返せなかった。与えてくれた愛情も、教えてくれた知識も、何も。
だから、これだけは果たさなければいけない。
何も知らずに戸惑うあんたの背中は、俺が押してあげる。




だから、どうか幸せに。
並んで歩く2人を見ながら、俺はそう願った。











<神楽編>


呼吸を止めた、大好きな人の亡骸の前に耳を塞ぎたくなるような悲鳴をあげる銀ちゃん。
ドカっと壁を殴り、行き場の無い気持ちを抑えるのは泣いている沖田。
誰もが、泣いている。
勿論、自分も泣いている。
嗚咽は、出ない。悲鳴も出ない。ただ、喉はひくひくと引きつっている。
声が、出ないの。
苦しいよ、トシちゃん。
もう、「大丈夫か?」って声を掛けてくれないの?
美味しいご飯も食べられないの?
悪いことをしたら怒って、良いことをしたら褒めて、笑顔で抱き締めてくれないの?

「トシは、一年後に戻ってくるんだと。信じて、待ってやってくれな」

ふいに、頭上から聞こえるのは近藤の声。顔を両手で隠して、涙声でそう伝えてくる。
この男は本当に信じているのだと、直感してなんだか悔しくなった。
負け惜しみではないけれど、戻ってくると彼は言ったのだ。
それならば、私は信じて待つしかない。
悲しくて、苦しくて、どうしようもない。
やさしくて、厳しくて、愛してくれた彼が、本当に大好きだった。
彼がいた日々は、本当に楽しかった。大好きだったの。



そして1年後、本当に彼は帰ってきてくれた。
うれしくて、うれしくて、仕方が無かった。
本当はね、
夏祭りのあの日にはもう、トシちゃんがいなくなっちゃうって、分かってた。
でも、あの短い時間で与えられたものは本当に大きかったから。
悲しくないなんて嘘になるの。
寂しくないなんて、そんなことないの。


でもね、トシちゃん。
悲しくても、寂しくても、前を向いて歩く力になる。
そんな力を、トシちゃんがくれたのよ。
ありがとうなんて、大好きなんて、いっぱい言っても言い足りない。
けど、
ありがとう。
大好きよ。


いつも私を、見守っていてね。

そうやって、あの日。
上がる花火に願いを込めた。









<近藤編>


「これ、1年後の……そうだな、夏になったら銀時に渡しといてくれ」

幼少に出会った頃のような、細くて白い手が自分に封筒を渡す。
何故だと聞いても笑ってはぐらかされるだけだと思い、すぐに懐に仕舞った。
渡すまでは内緒だぞ?
そう、意地悪く笑う姿は今も昔も変わらない彼のままで心底安心したのを覚えている。
今思えば、トシは全部を分かっていて。
それでも、懸命に生きていた。

生きて、居たのだ。

それなのに、彼の恋人であるはずのコイツはどうだろう。
彼がいない重さに潰されて。
悲しみにくれて。
トシが「生きて」と言ったから生きている。自分の意思なんてものは欠片もない。
お前のせいじゃない。トシが居なくなったのは、誰のせいでもない。

ピンクの少女が声も出さずに泣いている様を、どう思う?
信じられないと、泣いていたあの兄弟は?
叫ぶでもなく、壁を叩いたうちの少年の様子は?

だからあの時、殴った。
生きる気がはなから無い者が、生きていけるほど人間というものは丈夫に造られてはいない。
ただ何もせずに死を待つ男に腹が立った。
腹が立ちすぎて、悔しすぎて、涙が出た。それすらも悔しかった。情けなかった。
でも、俺に殴られて、俺の顔を見た奴も相当情けなかったのを覚えている。
トシの最期の願い事を無碍にすることはこの男だけには決して許されないのだから。

死にたいのなら、1年後。
1年後の夏にすればいい。

それまでは生きて。
おれの親友の願い事を叶えていて欲しい。そう、切に願った。






一年後の夏、雨の季節の人波乱が去ったあと、あの時の情けない男は懸命に生きている。
夏になり立てで、生ぬるい風が頬を晒していて気持ちがいい。
先ほど、手紙を渡してやった。
これで肩の荷が下りたというものだ。





なあ、親友。
見ていてくれよ。心配させてゴメンな、俺たちはもう大丈夫だ。


夏の空は、いっそ清々しく。
それは去っていった彼のようだった。






END
3種類詰め合わせ。
い…1話だと短くて、3話だとかさばった…!!(どうしようもねえ)
一応番外編はここで終わりです。本当に完結です。本編とあわせて、ご拝読ありがとうございました!!
こんな妄想の産物に付き合っていただいて、もう何とお礼を言えば良いのやら……!!
また、何かあれば突発に書くかもしれませんが…。(予定は未定!)




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