終わりの日まで、カウントダウン。



 か ぜ (六月の花嫁番外編)




神楽が着替えの入った荷物をベッドに置く。宛がわれた部屋は個室で、白が強調されている何も無い病
室。その、いっそ白すぎる空間に急に不安になったのか、神楽がそっと着物の裾を引っ張ってきた。

「トシちゃん、大丈夫アルか?」
「当たり前だろ?新八がお花生けているから、病室分かんないかもしれねえ。神楽見て来いよ」
「銀ちゃん行けばいいアル!」
「神楽ちゃん!ちょっと今のお父さん傷付いた!」
「神楽、行ってきて?」
「……ぬー」

新八は、お花を生けてきます、とエレベーターで分かれているから、ここに居るのは俺と銀時、そして神
楽だけだった。新八は室番号さえ聞いているものの、場所はよく分かっていないはずだから、神楽を迎
えにやらせる。渋々といった風情で部屋から出て行く少女を2人で苦笑いした。
今日は、俺が入院をする日。
初めての入院で、とりあえず1週間という期間がついている。きっと検査入院と称して何度も入院をする
ことになるのだろうけれど、それはまだ言えない秘密だった。
平気そうな顔をしているが内心はビクついている旦那の顔は、2人きりになった瞬間からいっそう強張っ
てしまった。これからのことを考えると、とっても不安だ。家の様子も、こんな様子の銀も、これを見なけ
ればいけない子供たちも。
でも、これは。
お前たちがこえなきゃいけない壁なんだ。
俺が残った時間で出来ることは、その導きをしてあげることくらい。

「寂しい?」
「…………もっっっっのすっごい。布団寒い!!」
「そこか!」

箍が外れたようにぎゅーっと抱きついてくる体に、出会ったころは身体の線の細さしか変わらなかった差
が大きくなったなと感じる。身体が病気のせいで全体的に細くなり、もとから細かったのにさらに拍車が
かかった気がする。体温も低くなって、銀時の熱さにこみ上げてくるものがあった。
力が込められすぎている腕に、苦しいといえば、仕方がなさそうに離れていく。

「携帯、離さないでね」
「通話しか出来ないぞ。メールは変換がよくわかんねえ」
「毎日来るから」
「仕事はしろよ?」
「長いね、一週間」
「……」

これからもっと長くなる、なんてこんな捨てられた犬のような目をする男に言えるはずもなく。
ただ、何も言えずに頭を撫でる。
ふさふさしていて気持ちがいい。
寂しい、
悲しい。
一週間も、こんなに長く離れたことなんて久しくなかった。離れるって言っても会える時間が格段に減る
だけだけど。

「しっかり、頑張れ」
「……できる限り」
「すぐ、戻るから。大人しく待っていてくれよ、旦那様」
「うん、俺の奥さん」

両頬に、額に、最後は唇にキスをして。
ぎゅっとまた抱きつかれた。今後は背中に手を回して、駄々をこねる子供をなだめるように、ぽんぽんゆ
っくり背中を叩く。体つきが全然違うからすっぽり収まってしまう体がちょっと憎いけれど、温かいから、ま
あいいかな、とも想う。

「あぁぁ!銀ちゃんとトシちゃんがまたいちゃコラしてるアル!」
「銀さんも、土方さんを着替えさせてさっさと寝かせて置いてくださいよ!!」
「お前ら場の空気読めよ!!夫婦の逢瀬を邪魔するようなお子様に育てた覚えはありません!」
「いや、育てられてないですから」
「ぐーたらな親父から学ぶことは何ひとつないアル」

そのまま雪崩のように3人の喧嘩が始まって、迎えに来た看護婦さんに怒られた。
初日だから、と長い検査をするらしい。
付き添うといって聞かない銀時は、検査室の前まで着いてきてしまい、看護婦さんは迷惑そうにしてい
る。仕方がないな、と溜息をついて向かい合うと不安が目に滲んでいた。

「付き添わなくて本当に平気?」
「ソワソワしているのが傍にいたら逆に気になる」
「外でソワソワしていろと!」
「お前は妊婦の夫か!甘味処でパフェでも食って来い!!神楽、新八。つまみだせ」
「ぎゃぁぁぁ……」

大丈夫だから、と笑うと仕方がないとばかりに笑い返された。
くるりと背を向けて歩き出した3人に少し切なくなったけれど、覚悟を決めて検査室に入ろうとする。
不意に視線を感じて振り向くと、銀時に首だけこっちを向いて「がんばれ」と言われた。
これから頑張らなくちゃいけないのはお前なのに。
不安でいっぱいなのもお前なのに。
へタレはへタレなりに根性があるってことか。
それでも、心が温かくなるのは「がんばれ」に色々な意味が込められているからかな。


「土方さん?」
「あぁ、スミマセン。今行きます」











ねえ、銀時。
本当は怖かった。苦しかった。死ぬのは怖い。
まだまだやりたい事はいっぱいあるのに。全部、これからのはずなのにね。
俺はもう、あと幾許もない命だけれど。
悲しまないで、なんて言わない。
泣かないで、なんて言わないから。
忘れないで。
俺がお前を愛しているってコト。
俺がお前に注いできたものをすべて。

一年後、雨の季節に会いにくるから。
前を向いて歩いてね。

お前の中で整理がついたら、お墓の前では泣かないで。



お墓の前では、泣かないでね。
笑った顔を、たくさん見せて。
俺はお前の笑った顔が、なにより好きだから。











END
最終話以来(しかも手紙以来)のトシさん視点。
亡くなるまでのトシさん。
 

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