撫でて、優しく。


のうぜんかつら (六月の花嫁番外編)



ぱたり。

呼吸器の音も消えて、握っていた腕の力も落ちた。
最期まで笑って。
キレイなまま君は逝った。
叫びが上がって、涙が落ちてきて、やりきれない気持ちを、壁にぶつける。
呼吸器を外して、医師が死亡の確認をしている。
触って欲しくなかったけど、身体の力が全部抜けて、何も出来なかった。

息が詰まる。
もう、何も考えられない。
君がいない世界に意味なんてないのに。


ねえ、

ねえ、トシはさ、
何を見て、何を聞いて、何を感じていたのかな。
俺は、君に何が出来たかな。
独りなんて、全然平気だったのに。
いつから怖くなったんだろうね。
新八と会って、神楽と会って、そして君と会って。
独りの時間が断然減って。いつの間にか隣にいるのが当たり前になっていたのに。
君が、平気そうな顔するから。
まったく気が付けなかった。
こんな俺は、馬鹿以外の何者でもない。

もしも、これから俺が。
君の匂いを探しても、そこに君は居ないんだ。
君を探して手は宙を舞うけど、君にはもう触れないんだ。


ねえ、

声を聴かせて。

笑顔を見せて、

肌を伝えて?

二人で並んで歩いた日々が、このまま続くって言ってよ。
もう、泣かないから。
笑うから。

だから、俺の隣で優しく微笑んでよ。







無理だなんて、言わないで。










パチ。
目が覚める。
扇風機が首を回していて、ドロドロに溶けたアイスがテーブルに置いてあった。
どうやら俺は寝ていたようで、
しかも泣いていたようで。
頬が乾いて変な感じになっている。

「うおー勿体ねえ……」

無残なアイスは、もう一回固めよう!と心に決めて冷凍庫へ直行。
玄関に、買い物に行ってきます、と書かれたメモが放ってあった。
……子供たちよ、メモという物は一目でわかんなきゃいけねえもんだよ。
アイスを冷凍庫へ入れて、代わりに麦茶をコップに注いで戻ってくる。
トシからの手紙が、テーブルに置いてあって、夢の原因はアレか、となんとなく思った。

仏壇は買えなかったから、遺影と写真。あとは煙草と刀が置いてある一角に、座布団を置いて移動する。
ここは、ほとんどお悩み相談室と化していて、何かあったときはいつもだれがここに居る。
嬉しかった報告も、悲しかった報告も、怒ったときも、何でも彼に話に来る。
モテモテだね、と笑えるようになった俺は、確実に人間として成長している気がする。
写真の輪郭をなぞって微笑む。
トシの手紙を、煙草の横に置いて、一口お茶を啜った。



「トシ、俺ら元気でやってるからさ。心配しないで向こうでゆっくりしてろよ〜」





人生まっとうしたら、また会おうぜ。
それまで、見守っていて。

だって、きっと君は。

俺たちの傍に居る。






END
番外編その1。
夏のある日の銀さん。


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